人間がいなくなったら自然界はどうなるのでしょうか？

リヴァイアサンプレス:

それは私たちの直感に反するものではなく、私たちの心に植え付けられた概念です。人間は地球の癌のようなもので、行く先々で自然を破壊しますが、人間がいなくなると、自然はやがて元の姿と生態系を取り戻すでしょう。

残念ながら、私たちの頭の中にあるこの頑固な考えは間違っている可能性があり、時にはひどく間違っていることもあります。たとえ人間がその場所から消えても、自然の回復は私たちが想像するようなことは起こらないだろうという証拠が増えています。実際、自然の「本来の」姿は何かと問われると、科学者たちは、地球上のほとんどの地域にはいわゆる「本来の」風景は存在しないと考えています。

放棄は、端から忍び寄ってきます。最初に町外れの家が放棄され、続いて郊外の食料品店も放棄された。それはゆっくりと、しかし容赦なく内側へ押し込まれます。ガソリンスタンドは閉鎖され、ツタがポンプをよじ登り、屋根全体に広がり、その重みで屋根が崩壊した。バス停、薬局、映画館、カフェなども次々と閉鎖され、ついには学校までもが閉鎖された。

現在、ブルガリア中部の村チュルクメンで、いまだに人間の活動を維持している数少ない施設の一つが郵便局です。 56歳の郵便局員ディミトリンカ・ディムチェワさんは、週に2日郵便局を開き、地元の店では手に入らなくなった商品を町外から持ち込んでいる。

トルクメンはかつては人口1,200人を超える賑やかな町だったが、現在は住民が200人未満となっている。暖かい春の午後、ディムチェヴァは町の中央広場に立っていた。 「ここでは結婚式が開かれ、さまざまな民族舞踊やバレーボールの試合も行われています。若者がたくさんいて、プールもあります」と彼女は語った。彼女は周囲を見回し、廃墟や今は空っぽの場所を指差しながら、かつてそこに建っていた建物を思い出した。そこはかつて小さな映画館があった場所です。その裏には、焼け落ち、再建され、そして最終的に閉校となった学校がありました。 「当時の生活は活気に満ちていた」が、今では「村の生活は衰退しつつある」と彼女は言う。同様の村はブルガリア全土に見られます。

その後、人々は仕事を求めて都市に押し寄せ、その後 30 年間で多くの村が廃村となり、最終的には放棄されました。 2021年の国勢調査データによると、ブルガリアの約300の村は完全に無人であり、1,000以上の村の人口は30人未満で、そのほとんどは高齢者です。ブルガリアの人口は出生率の低さと移民の増加により数十年にわたって減少し続けている。人口は1989年の約900万人から650万人未満に減少しており、これは近代史上最大の平時人口減少の一つである。[1]

ブルガリアはこの人口構成の変化の極端な端に位置しているが、それを再形成する力は至る所に存在する。過去半世紀にわたって、農村部に住む世界の人口の割合は3分の1近く減少しました。農業はますます工業化され、集中化しています。現在、世界の人口の半分以上が都市とその近郊に居住しており、その割合は 2050 年までに 70% に増加すると予測されています。多くの国では出生率が着実に低下しています。世界人口は2080年まで増加し続けると予測されていますが、この増加の約半分は10カ国未満によって牽引されることになります[2]。

ブルガリアのトルクメン州にある荒廃した小屋を通って巣に戻るツルの姿が見られる。 © イヴォ・ダンチェフ

人口が移動し減少するにつれ、長期居住地域は徐々に放棄されていきます。人々は、いつか戻ってくる準備をするかのように、すべてをそのままにしておくことがよくありますが、その日が来ることは通常ありません。トルクメンでは、クリスマスボールがまだ空き家のカーテンレールに吊るされたままで、徐々にクモの巣で覆われつつある。ある廃墟の部屋では、腐った床の穴に陶器の戸棚が倒れたまま放置されており、お皿はまだきちんと積み重ねられており、隣には孫たちが遊びに来た時のおむつが一式置いてあった。法的な判決や緊急避難などにより、突然放棄されることもあります。しかし、多くの場合、それは混沌としていて、遅く、計画性がありません。人々はただ去っていった。

1950年代以降、一部の学者は世界中で約4億ヘクタールの土地（欧州連合の面積とほぼ同じ）が放棄されたと推定しています[3]。科学者グループは最近、1980年代以降、アメリカ合衆国本土で約3,000万ヘクタールの農地が放棄されたと計算しました[4]。気候危機により居住不可能な地域が増えるにつれ（洪水、水不足、山火事により住宅の建設が不可能になり、土地の劣化や干ばつにより農業が不可能になる）、将来的にはさらに多くの人口移動が予想されます。

この世界を変えるような変化はほとんど気づかれなかった。 「それは常に存在していたが、私たちはそれを実際に説明してこなかった」とケント州立大学の科学者、ヘ・イン教授は語った。彼と他の科学者たちは、リモートセンシング技術を使って世界中の放棄された土地の地図を作成している。 「私たちは常に拡張について話しています」と彼は土地開発について語った。「確かにそれは重要です。しかし、もうひとつの側面、つまり放棄についてはほとんど語られていません。」

トルクメンの廃屋。 © ジョージア公共放送

人口減少の話の先には、放棄された土地に何が起こるかという別の話があります。居住可能な地球を保護するためには、森林、草原、健全な生態系、野生地域を保護し、拡大することが不可欠です。放棄された広大な土地は、機会と疑問の両方をもたらします。これは結果を予測できない未完成の実験です。何千年もの間、人類は住む場所を劇的に変え、地球の姿を再形成してきました。では、人間がいなくなったら自然界はどうなるのでしょうか?

生態学者のゲルガナ・ダスカロワ氏をトルクメン門に惹きつけたのはこの謎だった。彼女は5月の暑くて静かな朝にメインストリートを歩いた。通りには人影はなかったが、フェンスや門、電柱には、風でホッチキスの針が外れ、初夏の暑さで揺れる書類が貼られていた。ブルガリアでは、家族が亡くなった場合、死亡記事を掲載するのが伝統です。これらの A4 サイズの印刷された紙には、故人の名前、写真、死亡日、および簡単な追悼の言葉が記載されています。それぞれの紙には、その人が亡くなってからの経過時間が書かれていました。6か月、1年、10年、22年などです。全国の村々では、こうした死亡記事が人間の居住の終わりを意味することも多かった。

プレストイ村の死亡記事。 © イヴォ・ダンチェフ

「歩き回れば、人々がいなくなった時間を示す時計のようだ」と、大規模な人間の活動が自然界をどのように変えているのかを研究する地球変動生態学を専門とするダスカロバ氏は語った。 「人間の観点からすると、悲しいことです。しかし、これは人間の影響の終わりと、それに伴う環境変化の始まりを示すものでもあります。」

彼女は現在、ブルガリアの田舎にある、さまざまな段階で放棄されている 30 の村を調査する野心的な研究プロジェクトに取り組んでいます。彼女は協力者や学生とともに、ドローンを使って森林の回復状況を地図にしたり、区画ごとに植物調査を行って植物種の変化を観察したり、木に録音装置を取り付けて鳥の鳴き声の密度や音量の変化を記録したりと、幅広いデータを収集しています。彼女は、時間が経つにつれて、廃村の生態系とまだ人が住んでいる村の生態系を比較し、人間が去った後に自然がどのように反応するかの全体像を把握したいと考えています。

ドイツのゲッティンゲン大学の研究者であるダスカロワ氏は、ブルガリアで研究を行っている。 © イヴォ・ダンチェフ

30代前半の温厚でおしゃべりな女性であるダスカロワさんは、科学理論を根気強く普及させる才覚を持っている。おそらく、辺鄙な野原で好奇心旺盛な羊飼いたちに、マイクを木に結びつける理由を説明する中で身につけたスキルなのだろう。彼女には最近息子が生まれたばかりで、その子は時々彼女の隣に座って、彼女が研究区画を行ったり来たりしているのを真剣な表情で見守っていた。トルクメンはランダムに選ばれた研究場所ではなく、彼女が育った場所なのです。彼女の世代の多くの人々と同様、ダスカロワさんも、両親が最寄りの都市で働いている間、子供の頃は主に祖父母に育てられた。結局、彼女は大学に行くために村を去りました。

「10年間、私は村を離れては時々戻ってくる人々の一人になった。戻ってくるたびに、私の住む通りに住む人の数は減っていた」と彼女は語った。ダスカロワさんは幼かったころ、冬の間は放棄された跡を探し、路上の煙突や窓の明かりからまだ煙が出ていないか確認していた。 「しかし、結局、電気が消えてしまいました。」ダスカロワ氏はキャリアの最初の数年間、北極圏のツンドラ地帯を含む遠隔地で働いていた。しかし彼女は、自分が経験した大規模な個体数減少を常に覚えており、それが何千もの種の未来を変えてしまう可能性のある、より広範な傾向の一部であることを認識していた。現在、彼女はトルクメンにある祖父母の古い家に住み、働いています。彼女の周りの家はほとんどすべて空き家だった。通りの向こう側では、家が雨の中で捨てられた段ボール箱のように崩れ落ちていた。

それぞれの研究対象地は、個別に見ると、他の何千もの村と同じように、単なる一つの村にすぎません。 「しかし、ある意味、それが特別なことなのです。なぜなら、人口減少が非常に大規模に起こっているからです。」そして、放棄後に何が起こるかは、私たちが予想していたものとは大きく異なることがよくあります。

地球の広大な地域が放棄されていると知ると、人類の廃墟の中にエデンの園が復活したというイメージを思い浮かべずにはいられません。人間がいなければ、自然は力強く戻ってくるだろう。崩れかけた街路には鹿が徘徊し、蔓がコンクリートを突き破り、フットボール競技場は森に変わる。空は晴れ、生物種は繁栄するでしょう。 2020年のロックダウン中、多くの人が半ば放棄された状態を目にした。人間が屋内に閉じこもることを余儀なくされる中、野生動物が街の通りや郊外の庭園に戻ってきています。 「人間はウイルスだ」とコメント投稿者は皮肉を込めて述べ、人間がいなくなったことで「自然が治癒している」と述べた。

ブルガリアのクレスリュフツィ村にある廃屋。 © イヴォ・ダンチェフ

人間は自然界の災いであり、人間がいなくなった後には楽園が栄えるというこのビジョンは、生態学の最も古い考えのいくつかと結びついています。 19 世紀後半、植物学者フレデリック・クレメンツは、どんな景観も、手を加えなければ徐々に発展していくという「遷移理論」を広めました。たとえば、耕作地は、まず成長の早い草や雑草で覆われ、次に低木、最後に樹木や森林で覆われます。

クレメンツは、いかなる場所も継承を通じて安定した均衡の「頂点」の状態に到達すると信じていました。最終的な結果は気候や地理によって異なるかもしれないが（アルプスの森林は沼地や砂漠とは異なる）、基本的な軌跡は同じである。それは、クレメンツ氏が「普遍的な法則」と呼んでいるもので、動物が幼体から成体へと成長するのと同じように、生態系は頂点に向かって「上昇」していくのである。この考え方は、都市、人口、産業が爆発的に成長した20世紀初頭に広く受け入れられました。シンプルで上品な美しさがあります。この理論は、人間の活動が周囲の地球を変えていくのを人々が見ているときに、いくらかの慰めも与えてくれる。氷河が後退したり、森林が農地のために伐採されたりと、どれほど劇的な混乱があっても、自然が回復する能力は常に存在します。理想的な表面状態は土壌の下の基質のようなもので、地面が耕されたり、掘られたり、焼かれたり、舗装されたりしても、時間と乱されていない条件があれば回復します。

時が経つにつれ、クレメンツの幅広い理論は仲間の植物学者から疑問視されるようになった。彼が言うところの安定した永続的な極相群集は捉えどころのないものである。現地調査により、生態系は崩壊、再生、分化、停滞という予測不可能なサイクルを繰り返すことが判明している。今日では、この決定論的な継承理論は覆されています。しかし、クレメンツ氏のビジョンは、生態学者を失望させることさえあるほど、一般大衆の想像力の中に根強く残っている。 「環境に関する一般的な考えの多くは、人間が干渉を控えさえすれば自然は均衡を保つだろうという信念に基づいています」と生態学史家ウィリアム・クロノンは1995年に書いています。「これらの物語は人間のものであり、自然のものではありません。自然界は自発的に寓話として組織化されることはありません。」

実際、科学者たちは、人類と自然界との関係は私たちがよく想定しているよりもはるかに複雑であることを発見しつつあります。これはダスカロワ氏によるかなり直感に反する発見でもある。人間の存在は必ずしも常に自然と対立するわけではなく、多くの種の生存を助けることができるのだ。さらに驚くべきことは、完全な放棄は、人間の存在をいくらか残すよりも生物多様性に悪い結果をもたらすことがあるということです。

この点を説明するために、ダスカロワはブドウの木の下に埋もれた村に私を連れて行ってくれました。クレスリュウツィはブルガリア中部の山岳地帯に位置しています。何年もかけて、村はほぼ完全に放棄されました。ダスカロヴァが研究する村々の系譜学は、ほぼ完全に人間が不在となった後の状況に関するケーススタディを提供している。ダスカロワさんは丘の端に立って、慎重に小道へと足を踏み出した。彼女の足が地面に触れると、何千本もの絡み合った蔓に支えられてわずかに跳ね上がり、きつく絡み合った蔓の弾力性が弾力のある浮力を生み出した。

下のどこかに急な斜面があり、数メートル離れたクレスレフツィ村には長い間放置されていた家がありました。石垣が崩れるにつれ、その形は徐々に崩れていった。蔓が家全体を覆い、沈没の最終段階にある船首のように、屋根の片隅だけが露出している。 「彼らはこの場所を完全に食い尽くすだろう」とダスカロワ氏は語った。

クレスレフツィのツタに覆われた廃屋。 © イヴォ・ダンチェフ

このつる植物は、人間が去った後に土地が直面する最初の力を示しています。つまり、人間が大量に去ると、出現した優勢な種が他の種を駆逐する可能性があるのです。最もひどい被害はブドウの木ではなく、侵入種によるものです。農地の約12％が放棄されたポーランドでは、畑の広大な一帯がカナダアキノキリンソウの鮮やかな花粉に覆われ、マスタードイエローに染まっている。この植物は全国の放棄された畑の75％以上を占領しており、アキノキリンソウが生育する場所では他の種が根付く可能性はほとんどない。これらの放棄された土地を調査した科学者たちは、野生の花粉媒介者の個体数が60%～70%減少し、鳥の個体数は半減したことを発見した[5]。

ブルガリアでは、ニワウルシが新たな脅威となっている。これは中国北部原産で、丈夫で成長が早く、病気に強い樹木だが、苦い樹液を出して他の植物や動物、微生物を寄せ付けない。こうした単一種の集中により、1 つの種だけが生き残る「生物学的砂漠」が形成される可能性があります。多様性の必要性は、人間の美的嗜好だけによるものではありません。単一種の個体群は、土壌の劣化や栄養分の枯渇、他の種の絶滅、浄化困難な水資源、大規模な山火事、干ばつに対する脆弱性、病気の急速な蔓延を伴うことが多い。

ブルガリアの廃屋に残る石壁の残骸。 © ジェルガナ・ダスカロヴァ

場合によっては、単一種による支配は一時的なものとなる。致命的な侵入種であっても、最終的にはそれらよりも大きくなる可能性のあるさまざまな植物や生物にとっての「育成」環境として機能する場合があります。他の場合には、生態系が停滞し、回復や多様化に失敗する可能性があります。 「森林は一度破壊されても、数十年以内に草原や低木地帯から自然に回復し、植林が役立つと広く考えられている」と、科学者らは2023年に香港の植林地について行った研究で記した。 「私たちの研究は、森林の回復は人々が考えていたほど速くも完全でもないことを示しています。 」[6]

人間はしばしば、単一の種の優位性に責任を負っています。しかし、人間は、この支配を阻止する上で、予想外かつ過小評価されている役割も果たしています。クレスレフツィのブドウの木の間を歩きながら、ダスカロワは向きを変え、丘の中腹に続く小道へと慎重に歩いて戻った。再び道に戻ると、彼女は草の上にしゃがみ込み、足元にある植物の名前を言い始めた。草、ツタ、キンポウゲ、紫色の花を咲かせる蔓性植物、そして小さな黄色い蘭。 「この道を登ってくる人はあまりいないと思うけど、たまにはそういう人もいる」と彼女は言う。その過程で、彼らは蔓の広がりを阻止し、この小さな群落の種が色鮮やかに繁茂するための空間を作ったのです。ダスカロワが立っていた小道は森の中の開けた場所に続いており、そこには草や野生の花が咲き乱れる草原が広がっていた。ここでも、繊細な花の房が現れ、土地の歴史を明らかにします。キンポウゲや農作物の雑草は、ここが最近まで人間が住んでいたことを示しています。また、開拓された空間も同様です。ダスカロワさんは、空き地を取り囲む密集した木々を指さした。その木々は観客のための円形劇場のように配置されており、枝のネットワークはすでに空き地の貴重な光源に向かって伸び始めていた。 「彼らはまさに限界にいて、機会があればすぐにでも動き出す準備ができています。放牧や草刈りが行われなければ、土地全体が密集した樹冠の影に埋もれるまでわずか5年しかかからないでしょう。」

ブルガリア、シシマンツィ近郊の耕作されていない小麦畑にいるキセキレイ。 © マルコム・ブースロイド

人々が生態系の回復を想像するとき、この森林の復活が最初に思い浮かぶことが多いです。しかし、森林は生息地の可能性のある場所のほんの一部にすぎません。他の種にとって、生命の通貨は光であり、限られた森林の樹冠の下では生存は不可能である。ツバメは広く開けた野原に完璧に適応しています。翼の曲線と尾の独特な分岐は、草の上の昆虫を素早く捕まえるように設計されています。テーブルクロスの上の胡椒のようなムクドリの群れは、捕食者を遠ざけ、生息地を保護するための、開けた野原への適応です。植物、哺乳類、昆虫、草食動物、野生の花など、さまざまな種がこれらのオープンスペースに適応し、共進化してきました。開けた草原は、温帯林よりも生物多様性が高い可能性があります。

昔々、このような環境は巨大な動物によって作られました。マンモス、バッファロー、バイソン、ホラアナグマなどの動物は、森林の形を変え、木々を倒して草原や大草原を形成するほどの大きさでした。科学者たちは、大型動物が南アメリカの森林の約30％を破壊したと推定しています。[7]しかし、彼らはほぼ全て絶滅しており、その死は人間の到来と一致することが多かった。[8]多くの場所では、木陰を押し戻し、他の生物が根付く機会を提供しながら、このような極端な方法で景観を変え続けることができる生物は人間だけである。

オランダ、レイセン近郊の廃墟となった農家。 © ストリンガー、ゲッティイメージズ経由

何千年もの間、地球上で人類は火と道具を使って、農業、園芸、放牧、狩猟のために土地を開拓してきました。その過程で、私たちは生態学的な「モザイク」または「パッチワークの風景」を作成します。これらは、牧草地、庭園、森林など、さまざまな生息地を含む風景です。これらの場所は自然保護区として設計されているわけではありませんが、多種多様な動物が生息しています。ソフィー・イエオは著書『Nature's Ghosts』の中で、ヨーロッパで畜産のために耕作されている干し草の牧草地は、生物多様性のために特別に耕作されている牧草地よりも、実際にはより多くの種の保全に成功していることを示す研究[9]を詳述しています。研究者たちは、初期完新世（約11,700年前に始まった）を振り返って、人間の存在が生物多様性を減少させる可能性と増加させる可能性はほぼ同じであることを発見しました。[10]人間が作り出した風景はすべて同じように作られているわけではありません。アスファルトで舗装され人工芝が敷き詰められた住宅街と、多種多様な野菜や花が生い茂る村とでは、まったく様子が違います。伝統的な干し草畑は、農薬まみれの大豆農園とは大きく異なります。

しかし、科学者たちは、人間と自然に関する古い考えが同様に間違っており、人間がいなくても環境が繁栄するというバラ色のビジョンは現実というより空想に過ぎないことを発見し続けている。 「人々はいまだに、自然は人間によって救われる清らかな場所だと思い込んでいる」と、アメリカの環境科学者アーリー・エリス氏は言う。 「それは完全に誤解です。」

© CNトラベラー

2021年、エリスは1万2000年前の歴史を遡る新たな研究を発表しました。彼と彼の同僚は、地球上の陸地のほぼ4分の3が人間社会によって占領され、変化していることを発見した。他の研究者たちはさらに過去に遡って調査した。科学者たちは、後期更新世（12万年前まで）における人間と生物多様性との関わりを研究した結果、 「原始的な」景観は地球のほとんどの地域には存在せず、ほとんどの場合、数千年も存在していないという結論に達しました。[11]赤道アフリカのサバンナからアマゾンの熱帯雨林の奥地まで、現在では手つかずだと考えられている多くの風景が、実は人間によって大きく変えられてきた。 「人間が生態系において果たす重要な役割は非常に重要だが、長い間見過ごされてきた」とエリス氏は語った。 「地球上で最も生物多様性に富んだ場所は、ほぼ普遍的に言えることだが、先住民が住んでいる場所だ。」

なぜ？なぜなら、彼らは多くの生物多様性を保護し、さらにはその多様性を創造しているからです。彼らはこの異質な景観を維持しています。近年の人間の活動、特に生態系の大規模な伐採と化石燃料の産業的消費が生態学的災害をもたらしていることは疑いの余地がありません。しかし、自然を過去の状態に復元しようとする場合、重要な問題は人間の不在ではなく、人間の存在がどのような形で現れるかということかもしれない。

ブルガリアのヤトゥルク門に羊飼いが羊を誘導している。 © マルコム・ブースロイド

人口減少が進むブルガリアの小さなコミュニティでは、ささやかな人間の活動の痕跡が時々見られ、未来への道と過去を垣間見ることができます。トルクメン村のメインストリートから外れたところに、未舗装の道路があり、雑木が生い茂る草原へと続いています。私が訪問した日、56歳のスラヴチョ・ペトコフ・ストヤノフさんはそこに立って、茂みの中で草を食む羊たちを眺めていた。 「何年も前は、誰もここで放牧させてくれなかった」と彼は言う。 「すべては野菜を育てるためでした。」彼は村で羊を飼っている最後の男で、いつもは羊飼いを雇って羊の群れの世話をしていたが、最近は若者たちが村を出て行ってしまい、彼は畑に戻り、真昼の照りつける太陽を避けるために日陰に座っていた。

ストヤノフさんは、この地で多様性に富んだ「モザイク」景観の維持に尽力している数少ない人物の一人だ。いくつかの広場には樹冠が広がっているが、他の広場は放牧地として整備され、野生の花が点在している。彼は、人間の活動が環境に害を与えるどころか、実際には環境を保護することもできることを示しました。トルクメニスタンのような農村地域では過疎化が進むにつれて、新たな形態の搾取に対して脆弱になる。土地の価格は下落し、人口が減れば鉱業や採石業などのプロジェクトに反対することが難しくなる。 「人口減少が工業化への足がかりになる可能性がある」とダスカロワ氏は語った。

トルクメン村のこの道は、数世代にわたって人々の生活に重要な役割を果たしてきました。 © ジェルガナ・ダスカロヴァ

ストヤノフ氏は畑の下の貯水池を指さした。彼の祖父母は貯水池を掘るのを手伝った。しかし、ほんの数年前、ある企業が市役所を通じて、その魚を引き取る安い契約を結んだのです。このプロセスは、ポンプを設置し、貯水池を排水し、魚をすくい上げるという、残酷な短期的な論理に従ったものでした。他の生物はほとんどすべて死にました。 「彼らは約20トンの魚を捕獲した」とストヤノフ氏は語った。残った村人たちは激怒し、契約を終わらせるための運動を開始し成功した。貯水池はゆっくりと回復し、水、魚、鳥が戻ってきました。時間が経てば、村の一部も復興されるだろうと彼は期待している。彼らには今、村外れに計画中の石灰岩採石場を含む新たなライバルがいる。

この大規模な人口減少によってもたらされる環境的可能性を最大限に活用するには、人類と自然の関係性に対する概念を転換し、人類が生態系に利益をもたらすことも、害をもたらすこともあることを理解する必要があります。また、人間の意図も必要です。無視するだけでは不十分です。スラヴチョの群れの周りでは、トルクメン門の背景が変化しています。森林地帯は外に広がり、ブドウの木が別荘を覆い尽くし、化学物質の臭いを放つ外来の低木が牧草地を占領した。自然の進歩は止められないように思われるが、その未来は残された人々次第で不確実である。彼らは何を育てることを許すのだろうか？他に何が抑制されるのでしょうか?

廃屋の倉庫の扉の向こうには、開封されていない漬物や保存食の瓶が何十個も置いてあった。 © ジェルガナ・ダスカロヴァ

この不確実性は、放棄された土地を研究する科学者との会話の中で繰り返し取り上げられました。生物多様性が繁栄するには時間がかかります。人々をある場所から追い出すのと同じ力、つまり疫病、戦争、経済動向の変化が、人々を再びその場所へ呼び戻すこともあります。何寅氏は学者チームと共同で、数十年のうちに何百万ヘクタールもの放棄された土地が再び耕作地として利用されたことを発見した。彼らの無視は「あまりにも短期間」であり、自然にとっての本当の利益にはつながりません。[11]

ダスカロバ氏が監視した最も長期間放置された場所の一つで、彼女は最後の居住者が去って以来邪魔されることなく木々が成長し、繁茂しているのを目撃した。 「ほぼ半世紀にわたって、誰もその土地に足を踏み入れたことがなかった」と彼女は語った。しかし、今年になって新たなオーナーが現れました。彼らは、孤立した土地を観光客の憩いの場にするためにホテルを建設する計画を立てている。 「彼らが最初にしたのは、植生を隅々まで除去することでした。文字通り、その場所全体をブルドーザーで削り取ったのです」と彼女は語った。森林は伐採され、耕されて地面まで根こそぎにされ、土地には侵入した雑草がわずかに残っただけだった。土地を整地した後、買い手は新しいプロジェクトが利益を生まないことに気付きました。 「彼らはホテル計画を断念した」とダスカロワ氏は語った。 「今また放棄されています。」

参考文献:

[1]www.researchgate.net/publication/290752133_ブルガリアの人口爆発

[2]www.theguardian.com/global-development/article/2024/jul/11/global-population-predictions-offer-hopeful-sign-for-planet-un-says?CMP=share_btn_url

[3]www.science.org/doi/10.1126/science.adf1099

[4]iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ad2d12

[5]www.science.org/doi/full/10.1126/science.adi7833

[6]www.kfbg.org/en/press-release/article/KFBG-Study-Finds-That-Trees-Planted-in-Monocultures-Impede-Forest-Recovery（単一栽培で植えられた木々が森林の回復を妨げているという研究結果）

[7]nsojournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/ecog.01593

[8]royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2013.3254

[9]www.cambridge.org/core/journals/environmental-conservation/article/managing-biodiversity-rich-hay-meadows-in-the-eu-a-comparison-of-swedish-and-romanian-grasslands/3FB1EEF21C821CB667CC6D87B9F1A817

[10]www.nature.com/articles/s41559-024-02457-x

[11]pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9132457/

テス・マクルーア

翻訳者：tim

校正/タミヤ2

オリジナル/

www.theguardian.com/news/2024/nov/28/great-abandonment-what-happens-natural-world-people-dislapse-bulgaria

この記事はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス（BY-NC）に基づいており、timによってLeviathanに掲載されています。

この記事は著者の見解を反映したものであり、必ずしもリヴァイアサンの立場を代表するものではありません。