触覚：苔の多様な意味

イギリス、デボン州の苔むした木々。 © アダム・バートン/アラミー

リヴァイアサンプレス:

極寒の環境で暮らす伝統的なインド人は、苔の利用に精通しています。彼らは、鮭の粘液を拭き取るために苔を使い、手袋や靴、ベビーベッドにまで乾燥した苔を詰めて暖を取ったり、傷口に塗って出血を止めたり、枕に詰めて安眠を助けたりします...静まり返った極地では、苔は簡単に手に入る貴重な必需品です。しかし、ほとんどの場合、苔は最も見落とされがちな植物です。小さくて質素でシンプルですが、その大きな存在で森林の営みを支えています。苔を観察する一番良い方法は、見るのではなく、触ることです。

注: 原文の「苔 (Bryophyta)」という単語は、厳密には「苔類植物」と翻訳する必要があり、これは 3 つのコケ類グループの 1 つです。この記事では、中国の習慣に基づいて「苔」という言葉に翻訳します。

2021年の冬のある日、私はオックスフォードの自宅近くの森を散歩しました。街を見下ろすベンチの横で、薄暗い日光の下で緑色に輝く苔むした丸太に偶然出会った。苔の葉は最高級の刺繍のように小さく繊細で、ラップのように薄い。私は羽毛布団の上に指先を走らせ、その細部の精巧さと複雑さに驚嘆し、すぐにたくさんの写真を撮りました。

最後に苔に触れたのはいつだったでしょうか?初めてはいつでしたか?木々や川や山々は覚えていますが、苔については記憶がありません。しかし、その日はまるで苔が私を呼んでいるかのようでした。苔の大きな仲間の木々の間に隠れたその厳しさと美しさに私を呼んでいるようでした。

© ミルウォーキー・ジャーナル・センチネル

というか、苔は私にとって何を象徴しているのでしょうか。私は触れることの意味について、そして最後に自然に触れてからどれくらい経ったかについて考えていました。私は公園や芝生がたくさんある都市に住んでいますが、自然と触れ合う機会があまりありません。私はただそれを眺めるだけです。装飾的な白樺、運河、生け垣のバラ。夏には友達と泳いだり、日光浴をしたり、ビーチや芝生で転がったりしていましたが、きれいな家に帰るとすぐに、また自然から切り離されてしまいます。

私は、少量、適量、そして健全な方法で自然を求めています。

冬は、本当に自然と触れ合うことができる唯一の季節です。冬は、どんなに身を包んでいても、雨粒が必ずやって来ます。ミストがあなたを包み込み、顔に潤いを与えます。冷たく乾燥した空気は唇にひび割れを引き起こす可能性があります。息を吸い込むと、霧が鼻孔と喉の内側に当たります。耳の奥に冬が触れるのを感じるでしょう。冬の気配がどこにでもあります。

しかし、冬に最も働くのは苔です。あらゆる丸太の上、あらゆる岩の間、あらゆる割れ目の中で、それは成長し、輝きます。

その冬、私は毎日、街のあらゆる場所で苔に触れた。歩道や壁、柳の木の樹皮、金属製のマンホールの蓋、墓石、ハウスボートの屋根、放置された自転車、鉄道橋の下など。苔は十分な日陰と湿気があればどこでも育ちます。

© テノール

非維管束植物であるため、繊細な根茎構造を欠いている（ここでの原語は「シュート」である。実際、コケ類には「茎」があるが、その茎と葉には維管束組織がない。シュートとは、根の反対側にある維管束組織を持つ植物の地上部分を指す。中国語には統一された訳語がなく、状況に応じて枝、茎、冠などと訳される。ここでは仮に「根茎構造」と訳している。訳者注）； 「根」と呼べる部分は存在しません。コケは単細胞の葉から水分と栄養分を吸収します。この葉は、コケ自身の重量の 30 倍の水分を保持するように独自に設計されています。冬に苔を眺めながらその表面に触れると、まるで濡れたスポンジに触れているような感覚になります。初めて触ったときは柔らかく感じますが、そこにはさまざまな質感の世界が隠されていることに気づくでしょう。

© テーブルディベート

指の背で苔の上をそっと撫でると、小さな茎のような構造がくすぐったくなります。これらの茎は苔の葉から発生し、胞子体と呼ばれ、それぞれの先端に胞子嚢があります。風と水が胞子を発生源から運び去ると、苔は繁殖します。胞子体は苔の層よりもはるかに高く成長し、胞子が遠くまで移動して新しいコロニー、新しい家族を成長させることができます。

都市の集落で最もよく見られる苔の一つは、壁螺旋苔としても知られる Toutula muralis です。ほとんどの初心者と同じように、これが私が最初に気づいた苔でした。ある日、雨上がりの明るい青空の下、レンガの壁に生えている壁苔の胞子嚢が通常の3倍の大きさに膨らんでいるのを観察しました。これは私にとって奇妙なことであり、私がまだ読んでいない成長サイクルの別の段階なのかもしれないと思いました。私は壁の苔と同じ高さでひざまずき、胞子に向かって指先を伸ばしました。しかし、私の手は途中で止まってしまいました。目が慣れるまで少し時間がかかりましたが、胞子がまったく拡大していないことに気づきました。それぞれの胞子の周りには、小さな水の玉や妊娠中のお腹のように、水滴が 1 滴だけあります。

数分が経過し、再び雨が降り始め、さらに多くの水が流れ落ちて苔に染み込んでいった。まだやるべきことがあることを思い出したが、苔の層の前では、それらは少しばかげている、取るに足りないことのように思えた。それが苔が私に教えてくれた最初の教訓でした。時間に触れることができるのです。私たち人間の時間ではなく、哺乳類の時間でもなく、地球の時間です。

数時間後、私が街での用事を終えて戻ると、胞子はまだそこにあり、水滴を掴んだままでした。通常、苔の層が1インチ（2.54センチメートル）の厚さに成長するには25年かかります。しかし、コケは少なくとも 3 億 5000 万年前から存在しており、水から陸に上がった最初の種の一つです。ロビン・ウォール・キマーラーが「Gathering Moss」で思い出させてくれるように、コケは私たちの長老です。それは、私たちが都市やアパートを共有する種であり、人間の時間とその破滅的なペースの証人です。

苔に触れるだけで、苔の時間のリズムを体験できたらいいのに。

© プラントスナップ

＊＊＊

アリストテレスは触覚が最も一般的な感覚的知覚であると信じていました。最近、自然に触れることが、自然と再びつながるための最も強力な方法かもしれないと信じるようになりました。いくつかの研究では、裸足で歩く[1]や泳ぐ[2]など、身体を使って非人間的存在と関わる活動は、非人間的世界との感情的、倫理的な関係を育むのに役立つ可能性があることが示唆されています。

現象学者モーリス・メルロー＝ポンティは、人間の知覚に関する問題について考え、執筆しながら生涯を過ごした。彼の見解では、私たちは身体知覚と固有受容覚を通じて世界を理解します。この理論では、物体が自分の体に対して遠いか近いか、大きいか小さいかを判断するために視覚を使用するため、視覚は重要ですが、触覚も同様に、あるいはそれ以上に重要です。

アルゼンチン、ミシオネス州のルイナス・サンタ・マリア・ラ・マヨールにある苔で覆われた古代のレンガの壁。 © セバスチャン・ヤキムチュク/アラミー

触覚は、私たちを存在の根本的な条件、つまり人間であろうとなかろうと他者の必要性へと導きます。私たちは常に他人に触れられているので、他人に触れるときが一番無防備になります。

メルロ＝ポンティは、死後に出版された著書『見えるものと見えないもの』（1964年）の中で、次のような例え話をしています。「私の片方の手がもう片方の手に触れるとき、どちらの手が触れていて、どちらの手が触れられているのか？」私たちにはまぶたがあり、鼻をつまんだり耳をふさいだりできますが、皮膚という自然の保護層はありません。私たちは触覚をオフにすることはできません。人間としてこの世に生き残るということは、触れる者として生き残ることであり、私たちは常に体のあらゆる毛穴を使って触れたり触れられたりしています。

© ハウスダイジェスト

直感的に、自然に触れることで種の境界を越えることができるという考えは理にかなっています。植物界には、コケ類やその近縁種であるコケ植物以上に触覚を体現するものはあるだろうか？苔はほんの少しだけ。触れた生物の皮膚を貫通しません。また、コケは接触した宿主からほとんど何も奪いません。つまり、コケは寄生虫ではありません。しかし、それは木々を柔らかくし、土壌の浸食を防ぎ、私たちがほとんど気づかない小さな動物たちの隠れ家を提供します。

それは、地球と、私たちを含む地球上のすべての生物と常に接触しています。熱帯雨林や街の歩道では、苔が私たちに手を振っています。

＊＊＊

私が現在住んでいるオックスフォード大学の900年の歴史を通じて、苔の感触は多くの人々を魅了してきました。しかし、歴史家マーク・ローリーが指摘するように、イギリスにおけるコケ類の研究が始まったのは17世紀後半になってからだった。

ドイツの植物学者ヨハン・ヤコブ・ディレニウスは、イギリスのコケ類の多様性を記録した重要人物の一人でした。ディレニウスはギーセン大学（JLU）で医学を学びながら植物学への関心を持ち続け、そこで最初の主要著作である『Catalogues plantarum sponte circa Gissam nascentium』（1718年）を執筆した。この本の中で、彼は数種のコケ類と菌類を「隠花植物」という見出しの下に分類した。これは胞子によって繁殖する植物のグループであり、「下等植物」としても知られている。

植物学者ヨハン・ヤコブ・ディレニウス（1684-1747）。 © ウィキメディア

当時、おそらく、他の人が歩いた場所や動物が排泄した場所の地面に触れる時間を取ることをいとわなかった植物学者はほんのわずかだったでしょう。しかし、ディレニウスはそれをやり遂げ、その結果は有名なイギリスの植物学者ウィリアム・シェラードに感銘を与えた。当時、シェラードはスミルナ（現在のトルコのイズミル）から大量の植物を収集したばかりで、それらを分類するのを手伝ってくれる人を探していました。彼はディレニウスにロンドン郊外のエルサムにある自分の庭での仕事を提供した。 1721年、ディレニウスはイギリスに移り、シェラードの植物コレクションの分類、イギリスのコケ類の研究、イギリス植物図鑑（イラスト入りカタログ）の編纂に着手した。

ディレニウスはイギリスでの最初の 7 年間、エルサムとロンドンの邸宅を交互に暮らしました。 1724年に彼はイギリスで最初の完成した本、Synopsis methodica stiffen (Synopsis methodica stiffen) の第3版を出版しました。その初版は、1670年にケンブリッジの植物学者で博物学者のジョン・レイによって書かれていました。

1696 年の第 2 版では、レイはすでに 80 種のコケ類をリストアップしており、ジョージ・クラリッジ・ドルースによれば、ディレニウスは 40 種の菌類、150 種を超えるコケ類、200 種を超える種子植物を追加しました。ディレニウスは隠花植物を「菌類」と「コケ類」に分類したが、シダとトクサは除外した。

おそらく、これが「下等植物」に注意深く特別な注意を払った初めての事例だった。 18 世紀の紳士が、来る日も来る日も、何年もの間、イングリッシュ モスに触れ、収集していたことを想像するだけで、私は魅了されました。ディレニウスの内面についてはほとんど知られていないが、彼の手紙からは、彼が苔を愛し、苔とともに暮らすことを楽しんでいたことが読み取れる。イギリス人の中にいるということに関しては？そうなると、あまり好きではないですね。

ウィストマンズウッド国立自然保護区、デボン州、イギリス。 © マイク・リード/アラミー

3年間の厳しい作業を経て、雷氏の研究に基づいた「アウトライン」の改訂版が出版されたが、その本には彼の名前は載っていなかった。彼の出版社（とシェラード）は、イギリス国民が自国の苔に関する本に外国人の名前が載ることを好まないだろうと心配した。ディレニウスはリチャード・リチャードソンに宛てた手紙の中で、匿名の『アウトライン』の出版を報告し、その本をリチャードソンに公に捧げる機会がなかったことを残念に思ったと述べている。リチャードソンはもう一人の有名なイギリスの植物学者であり、ディレニウスの同僚でした。

この欠点にもかかわらず、ディレニウスはリチャードソンがシェラルドを説得して『苔の歴史』の執筆という夢を続けさせてくれることを期待していた。彼はこう書いている。「私が『モスの歴史』のことを言っているのですが、もしそれを書き終える時間があれば... あなたは... 彼に、私が週に一日をそれに捧げることを許可してくれるよう説得してくれませんか。」

ディレニウスが歴史書を書くために必要な週 1 日を見つけたのは 1732 年になってからでした。ディレニウスは地図帳の編纂を楽しんでいたが、彼の本当の情熱は下等植物に向けられていた。彼は、いつか自由にコケの研究に専念できるようになることを願いながら、約 4 年間、シェラードのカタログの作成に取り組んでいました。 1728年にシェラードが亡くなった後、ディレニウスの運命は一夜にして変わった。シェラードはディレニウスに著書と植物を残し、オックスフォード大学に植物学教授職を維持するための多額の資金を残した。彼は遺言でディレニウスを最初のシェラード教授に任命した。

1728年にディレニウスはオックスフォードに移り、死ぬまでそこで暮らした。オックスフォードでは、かつてのパトロンの兄弟であるジェームズ・シェラードがディレニウスを軽蔑し、苔の研究と図解の編集をやめるよう要求し、代わりにエルサム庭園についての本『Hortus Elthamensis』（1732年）を書くよう強要した。その結果、ディレニウスは莫大な経済的損失を被った。

『苔の歴史』（1741年）からのイラスト。 © アベブックス

ディレニウスは『園芸』を執筆した後、コケ類の研究に生涯を捧げ、1741年に『植物誌』を出版しました。576ページ以上、85枚のフルページの挿絵を含むこの綿密な本には、コケ類、菌類、地衣類、藻類、苔類、イネ科植物、ヒカゲノカズラ類など、661種の下等植物が詳細に記述されています。彼はコケ類を、ランタンコケ、灰色コケ、黄金コケ、真コケ、ミズゴケ、ヒカゲノカズラの 6 つの属に分類しましたが、この分類は現在でも役立っています。

この本は彼の生涯の使命であったが、市場では好評を得られなかった。その後すぐに、彼は本の要約版を書き始めました。もっと安い値段で売れば人々が買いたがるかもしれないと考えたからです。しかし、すでに誰かが先にそれをやっていました。彼と同時代のイタリア人、ピエール・アントニオ・ミケーリは、10年以上前に隠花植物に関する詳細な本を執筆しており、これはこの分野における先駆的な研究とみなされていた。 1747年、ディレニウスはオックスフォードの自宅で脳卒中で亡くなり、『コケの歴史』の要約版は彼の死まで出版されることはなかった。

ディレニウスの物語で最も悲しいのは、今日でも彼が一般的に「イギリスの蘚苔類学の歴史に貢献した大陸の植物学者」の一人として分類されていることだ。彼は、生まれ故郷のドイツでも、また彼が住み、埋葬されたイギリスでも尊敬されていなかった。彼の運命は移民の運命だ。

ディレニウスは私にとっては見知らぬ人でしたが、知り合うとすぐに親近感を覚え、後に彼は私の友人になりました。私はテムズ川沿いを散歩するときに彼の素晴らしいイラストを手元に置いて、彼と一緒にゴールデンモスとランタンモスの区別を学びました。

私はいつも木々を眺め、森の風を聞くのが好きでしたが、苔に注意を払うには、自分の思考と感覚を意識的に方向転換する必要がありました。苔は目立ってはいませんし、松葉や樫の枝のように引きつけられることもありません。見た目が素晴らしいとしても、細部までじっくり観察できるほど長くは続きません。ディレニウスのような、むしろ歓迎されない移民である男が、私たちが無視しがちな植物にすべてのエネルギーと希望を注ぐのはなぜだろうかと私は思った。

歴史家として、私はいくつかの理由を挙げずにはいられません。科学的世界観の台頭、植民地主義、植物界と人間界を分類したいという衝動、1609 年にギーセンに植物園が設立されたことなどです。これらはすべて真実かもしれませんが、疑問が残ります。なぜ苔なのか?なぜこの人？ファイルには常に何かが欠けています。

＊＊＊

インドのパンジャブ州の雨の多い町で育った私は、家の近くの角にある店まで行くために、一年の大半を泥の中を歩き、雨水をせき止めながら過ごしました。雨季には、空が土砂降りになり、雷が鳴る中、私は友達と一緒に地域の公園に行ってキャッチボールをしていました。

カイが生えた岩の上で滑ったのを覚えています。私たちのお尻が傷ついたことを覚えています。イニングの途中で、私たちは二度、時には三度、カイを滑らせました。パンジャブ語では、「kai」は必ずしも苔を意味するわけではありません。下等植物を、その繁殖様式に基づいて「コケ植物門」などのカテゴリーに分類することはありません。

スシュルタ・サンヒターやチャラカ・サンヒターなど、アーユルヴェーダ（北インドの伝統的な医療体系）の古代文献では、植物をその形状、質感、外観、薬効、生育場所に基づいてさまざまなカテゴリーに分類しています。特に地面に近い場所で、滑ったり、転倒したりする可能性のある植物は、カイと呼ばれます。

岩の上の海藻、地衣類、または滑りやすい苔について話すときは、「pathar utte kai jammi hoyi hai」というフレーズを使います。このフレーズには少なくとも2つの意味があります。大まかに言えば、 「苔が石の上に凍っている」または「苔が石から生まれる」という意味です。苔にとっての岩石は、木にとっての土のようなものである。ロマンチックなことを言うつもりはないが、苔を削って売るビジネスがパンジャブで繁栄するとは思えない。

© ルーラル・スプラウト

しかし、英国では苔は住宅、空港、ホテルの装飾に使用されています。ミズゴケはピートモスやボグモスとも呼ばれ、庭の生産性を高めるために使用されます。その生息地は希少な野生生物の生息地であり、炭素貯蔵庫でもありますが、園芸におけるその利用は驚くほど広範囲にわたります。世界の政治経済の迷路の中で、パンジャブは主に農業の実験と採掘（消費ではなく）の場となっている。

しかし、それ以上に、苔に対するこうした非常に異なる態度の形成に言語が役割を果たしたのではないかと私は考えました。

英語では、苔は庭を「カーペット」のように覆うことを意味します。この言語には、苔は装飾であり、自然界に美しいアクセントを与えるものであるという考えが込められています。 「カーペット」という言葉はラテン語の「carpere」に由来し、「細かく裂く」という意味です。何かを覆うには、それを引いて開けて覆い、覆い、引いて開ける必要があります。これら 2 つの動作が苔の運命を決定します。

スコットランドのアイスランド苔 © Murdo MacLeod/The Guardian

ディレニウスの死後数世紀にわたり、苔は世界中から採取され、他の世界を覆いました。科学と文明の名の下に、植民者は先住民、外国の土地、生態系を奪い、搾取しました。パトリシア・ファラやザヒール・バーバーなどの科学史家は、ジョセフ・バンクスなどの英国とヨーロッパの科学者による植物学の探検が英国の帝国権力の強化に貢献したことを証明した。植物学者は世界中の探検に植民地の役人に同行し、インドを含む世界各地での収集活動を通じて、経済的、文化的に重要な植物学および農業に関する知識を獲得しました。

1780 年代、オックスフォード大学の 3 代目シェラード植物学教授ジョン・シブソープは、地衣類の観察と収集のためにギリシャと現在のトルコを旅しました。 1795 年 4 月、シブソープはカルダムーラ (現在のギリシャ、カルダミリ) を旅しました。この旅について、彼は次のように書いている。 「ここでは人間の本性が正しい形を取り戻したようだ。トルコに征服されたギリシャ人の間に顕著だった肉体と精神の卑屈さはもはや見られない。」

これは植民地主義と東洋主義の時代であり、シェラード植物学教授たちも例外ではありませんでした。現代の植物学とそのほぼ世界的な優位性は、植民地主義によってもたらされた機会に大きく負っている。

植物の科学的な収集や抽出は人々の征服と同時に起こり、それは植民者がすべての人に影響を与えたことを意味します。 1744年、ディレニウスの死のわずか数年前に、ロバート・クライヴが初めてインドに足を踏み入れ、インド亜大陸におけるイギリスの植民地主義の進路を決定づけたと言えるでしょう。 1794 年、シブソープがオックスフォードシャーの植物に関する最も貴重な歴史的記録である『オックスフォード植物誌』を執筆した年までに、東インド会社はインドにしっかりと設立されました。

苔との接触の近代史は、エリート主義、植民地主義、人種差別の歴史です。オックスフォードを歩きながら、古い壁や石畳の道、門のある大学の中の苔に触れていると、苔に触れることは決して私がしたいかどうかの問題ではなく、苔に触れることができるかどうかの問題だということに気づいた。

19 世紀の英国には、長時間の重労働の後にパブで植物のラテン語名を暗記して独学で植物学を学んだ男性、女性を問わず多くの労働者階級の植物学者がいました。しかし、公共の場で植物学を研究するという考えは、エリートにとってはまったく恥ずべきことであり、恐ろしいことでした。労働者の植物学はマンチェスターやランカシャーでは広く普及していたが、オックスフォードの尖塔を通じて社会の上層部にまで届くことはなかった。

イギリスの植民地では、植民地主義によって触れることが特権とみなされました。入植者たちは原住民を雇って自分たちに代わって触らせたが、彼らは「原住民」が何に触れているかを知る権利を保持していた。それは苔と人間を超えた世界だった。彼らはまた、人間が非人間に対して抱くかもしれない感情や気持ちを否定します。

植物は注意深く観察する必要がある対象になります。苔の塊は、削り取って調べる必要のあるカーペットに過ぎません。コケに触れて家に持ち帰り、大学の新しい顕微鏡でその構造を観察します。

実際に触らなくても苔に触れます。

© クォークサイエンス

再び苔に触れたとき、私はもはや自然との一体感を感じなくなっていました。引き裂かれていくような気分です。純粋なタッチはもうありません。自然との汚染されていない関係に戻る方法はありません。苔のリズムがもう見つからない。私の指先と苔の胞子の間には、何世紀にもわたる搾取と強奪が横たわっており、その背後には人間の手とあまりにも多くの人間の接触がある。

＊＊＊

この記事を書いている間、私は自宅近くのトネリコの木を何度も訪れました。幹には、楕円葉アステリックス苔と波葉鶴苔の 2 種類の苔が生え始めています。後者は星形の葉を持つ苔です。一日おきに触っていますが、それについてどう考えたらいいのか、どう話したらいいのかわかりません。私は苔にその物語を語ってもらいたかったのです。静かで、謙虚で、平和で、静かです。

接触することで何らかの救済が得られると考えるのは不合理であり、愚かでさえあるかもしれない。相互主観的知覚としての触覚自体が腐敗してしまったら、私たちは常に他人の身体や自分自身に触れているとき、どこへ行くのでしょうか?

この解釈を覆したい。なぜなら、触覚の歴史の向こうには、別の種類の触覚があるからです。それは、他者に触れるという人間の能力、そしてその実存的、不安定、肉体的な性質です。それは、オックスフォードで物事がうまくいかなかったときにディレニウスに活力を与え続けたようなタッチだった。 1790年、イギリスの植物学の歴史書の中で、作家のリチャード・プルトニーはディレニウスを「隠遁者」と呼び、通信員は彼を「キノコの絵を描くのに忙しい」と表現した。自然に触れるのに忙しい。

触覚は、身体に内在する暴力性をいつまでも思い出させるものである。触ると、私たちは荒々しい過去に戻ります。子どもの頃、私は友達とタッチ・アンド・ランというゲームをよくやっていました。そのゲームでは、1人が他の全員を追いかけて、タッチしようとするというものです。全力で友達に向かって突進することと、熱心に手で友達を傷つけることの間の微妙な境界線を歩かなければなりません。それは簡単なことではなかったし、怪我もしたが、私たちは解決策を見つけた。それは、誰も傷つけない場合にのみタッチが評価されるということだ。

© ビョルン・フォレニウス/ゲッティイメージズ/iStockphoto

タッチは丁寧な手です。触覚の肉感は、私たちを他者、つまり人間や非人間、そして私たち自身にさらします。メルロ＝ポンティは、触れるという行為は知覚されるものと知覚する者の両方を構成すると主張しています。私は人間以外のものに触れながら何度もこの世界に投げ込まれ、そのたびに、触れる前の状態に自分自身を再び統合しなければなりませんでした。

この分裂と再統合の絶え間ないプロセスの中で、自分が誰なのか、自分がかつてどんな人間だったのか、また、自分が将来どんな人間になるのかもわからなくなる瞬間が生まれます。私は人間ですか？私はこの世界の一部でしょうか？変更できますか？

もし、自然に触れるという行為において、私が自然との誠実で純粋なつながりを実践しているのではなく、むしろ共謀的で歴史的でユートピア的な触れ合いを実践しているのであれば、おそらく触れ合いは複雑で階層化された柔軟な感覚知覚として再概念化できるだろう。

もしかしたらその逆も真実かもしれない。それは、経験そのものを一元的に、即座に提供するものではなく、私たち、つまり私たちの歴史と現在がそれを設計するものとしてです。おそらく、接触の表面的な部分はフィクションなのでしょう。

人間と非人間の関係の歴史は、接触とその根底にある基本的な相互関係、過去と現在の計算を形作り、分類してきたのかもしれない。私は、非人間世界からの疎外感を癒すためではなく、その世界と私たち自身の世界への扉を開くきっかけとして、触覚を養い、活用できるのではないかと考えました。

「タッチ」という言葉は、打つ、あるいは殴るという意味の古フランス語「toche」に由来しています。触ることは一種のこじ開け行為です。

春が来る前に、森へ散歩に行きました。さらに丸太が倒れた。赤い茎と羽毛のような葉を持つ苔の一種であるウッドモスが、森の床にきらめいています。ショーン・ヒューイットの詩「ワイルド・ガーリック」を思い出します。彼は次のように書いています。

世界は暗い

しかし、森の中では星が明るく輝いている

空は暗く、月は出ていなかった。家に帰る途中、私は憂鬱な気分でした。コートから鍵を取り出すと、鍵が床に落ちました。街灯の下で、銀緑色の苔、モス・アルゲンテアが光り輝き、私の鍵の下に横たわっていました。苔は私の家のすぐそばに生息する大地の記憶です。私はそれを歓迎しなければなりません。私はそれに触れ、それが私を崩壊させるに任せなければなりません。

参考文献:

[1]www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01426397.2021.1928034?journalCode=clar20

[2]www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14649365.2018.1534263

ニキータ・アローラ

翻訳者：クシャン

校正/ゴマ詰め歯の隙間

オリジナル記事/www.theguardian.com/environment/2022/nov/03/the-many-meanings-of-moss

この記事はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス（BY-NC）に基づいており、KushanによってLeviathanに掲載されています。

この記事は著者の見解を反映したものであり、必ずしもリヴァイアサンの立場を代表するものではありません。