片方の鼻孔しか持たずに生まれた赤ちゃん、そして50年間隠されていた「世紀の毒」

1980年、化学大手デュポン社の女性従業員が片方の鼻孔しかない赤ちゃんを出産し、同僚の赤ちゃんも先天性の眼と涙管の欠陥を患っていた。不思議なことに、その悲劇はすぐに忘れ去られました。

バック・ベイリーは鼻孔が一つしかなく、母親はデュポン社の従業員でした。翻訳:

1998年になって初めて、デュポン工場近くの牧場で牛たちの間で奇妙な現象が再び起こり始めた。牛の歯が徐々に黒くなり、下痢が続き、歩行が不安定になり、ついには大量に死んだのだ。農夫は近くのデュポン工場に何か問題があるのではないかと疑い、弁護士のロバート・ビロットを雇ってデュポンを相手取って訴訟を起こした。

彼らはこの訴訟が17年も続くとは思ってもいなかっただろう。この期間中、彼らはさらに恐ろしい秘密を発見しました。この謎の汚染物質 PFAS は世界中に広がり、青海チベット高原の雨水、北極の氷床の下の海水魚、そしてあなたや私、そして世界のほとんどの人々の体内に存在しているのです...

PFAS とは何ですか?

PFAS（パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物）は、数万種類の化学物質の総称です。それらはすべて炭素鎖全体にフッ素原子が点在する有機物質です。

炭素-フッ素結合は有機化学において最も強い結合として知られています。それ自体が非常に安定しているだけでなく、炭素骨格を保護することもできます。そのため、PFAS は「永遠の化学物質」とも呼ばれています。有名なテフロンがその中でも最高です。防水性、防汚性、耐寒性、耐熱性、そして非常に滑らかさに優れています。ヤモリでも捕まえられない！原子爆弾用の濃縮ウランから人工臓器、何千もの家庭で使われている焦げ付き防止のフライパンまで、私たちはそれなしでは生きていけません。

1960 年代のテフロン加工のノンスティック パンの広告 |ウィキペディア

しかし、安定性は諸刃の剣でもあり、そのような物質は分解するのが非常に難しいことを意味します。日常的な使用シナリオでは、テフロンは比較的安全です（260°C を超えない温度では有毒物質に分解されません）が、テフロンの製造プロセスで使用される原材料を含む PFAS ファミリーの他のメンバーには当てはまりません。この場合の原因物質は、それらの原材料の中にあります。

訴訟

この事件の訴訟は最初から困難な戦いになる運命にあった。

100 年の歴史を持つ化学大手企業であるデュポンは、テフロン、ナイロン、ケブラーなど世界的に有名な製品を生み出してきました。当然のことながら、地域の税収や雇用に大きく貢献しており、その利害関係のネットワークは複雑です。農夫ウィルバー・テナントが訴訟を起こすことを決意したとき、彼の周囲にいる弁護士、政治家、医師のほとんどは手を貸そうとせず、古い友人たちでさえ彼を避けた。

農夫のテナントはあちこち回って、別の農夫の隣人であるビロットの孫が弁護士だと聞き、絶望して彼に連絡を取った。

彼らは、ビロットが勤務していた法律事務所が一般的に大企業クライアントからの依頼しか受け付けておらず、ビロット自身は化学会社の弁護を専門としており、デュポンが彼の潜在的クライアントであることを知らなかった。私は純粋に祖母のためにテナントと話しました。

勇敢なドラゴンクエストの伝説が始まった。

ビロット氏に関するレポート「デュポンにとって最大の悪夢となった弁護士」 |ニューヨークタイムズ

デュポン社の従業員である農夫テナントの兄弟は、医師が診断できない奇妙な病気にかかり、資金を調達するために土地を売却した。

その土地はデュポン社によって埋め立て地として使われており、近くの小川がたまたまテナント氏の農場を通って流れていた。土地が売却されて間もなく、テナントの農場の牛たちは「狂い始めた」。白い泡が立つ小川、よろめく病気の牛、死んだ牛の奇妙な色の臓器など、すべてがビデオテープに記録されていました。そのビデオはホラー映画に匹敵し、ビロットに深い印象を残しました。

農家のビデオに死にゆく牛が映る

ビロットは訴訟を起こすという、やや難しい決断を下した。

デュポン社は訴訟に対応して地元の環境保護局と共同で調査を実施した。調査報告書では、農場の牛は栄養失調で、獣医によるケアが不十分で、害虫駆除も不十分だったと指摘されている。その裏には、農場主は牛の飼育方法をまったく知らなかったのだから、デュポン社はそれにどう関係するのか、という疑問があった。

裁判が近づくにつれ、転機が訪れた。ビロットは、デュポン社からEPAに送られた、謎の物質「PFOA」について言及した手紙を発見した。規制物質のリストには載っておらず、毒性データもありません。ビロットはデュポンにPFOAに関する完全な情報を提供するよう求めたが、当然ながら拒否された。

2000年秋、ビロットは裁判所に強制執行を申請し、今回ようやく望みが叶った。

訴訟

裁判所の強制命令により、ビロット氏は「関連情報」を次々と受け取った。デュポンは、自分が何を放棄したのか知らなかったようだ。それは、何千もの文書、11万ページ以上にも及び、ほぼ半世紀にわたる、整理されていない社内文書、健康報告書、研究記録の山だった。

この時点で、ビロットは数か月間オフィスにこもり、膨大な量の情報を整理し、衝撃的な真実を発見するしかなかった。

PFOA（パーフルオロオクタン酸）は、テフロンの製造時に凝集を防ぐために使用される界面活性剤であることが判明しました。これも PFAS の一種であり、別の化学大手である 3M によって製造されています。デュポン社は1951年にこの川を購入し始め、その後数十年間にわたり、何十万ポンドものPFOA粉末を川に直接排出し、7,000トン以上のPFOA含有汚泥を隔離措置も講じずに廃棄物プールに投棄し、最終的に何万人もの地元住民の飲料水を汚染しました。

PFOA のボールとスティックのモデルは、両端が親水性で疎水性である典型的な界面活性剤の構造です。 |ウィキペディア

さらにひどいのは、デュポンや3Mなどの化学大手がPFOAの毒性を研究しなかっただけでなく、学術研究を資金操作するために次のようなさまざまな手段を使ってきたことです。

· マニピュレーション研究の方向性:

1978 年、デュポン社の産業医は従業員の肝酵素値が異常に上昇していることに気づきましたが、研究はそこで終了しました。

有益な研究への資金提供:

1996年、3M社は職業上の暴露に関する研究に資金を提供し、臨床的な肝毒性はないと主張した。

不利な研究の抑制：

これらには、1961 年のラットの肝臓肥大の発見が含まれます。

1970 年に、吸入すると非常に有毒であることが判明しました。

1979 年にラットの角膜混濁と潰瘍が発見されました。

ラットの精巣腫瘍は 1990 年に発見されました。

前立腺がんのリスクは 1994 年に発見されました。

…

上記の研究はすべて社内機密情報となっており、一切公表されていません。

そして、彼らは公の場や半公の場で何を言うのでしょうか?

1980年に3M社は、そのような物質の毒性は「食卓塩と同等」であると社内で報告した。

1981年、3M社とデュポン社は共同で従業員に対し、乳児の奇形に関する結果を否定する報告を行った。

1991年、デュポン社は健康への悪影響を否定するプレスリリースを発表しました…

そうです、巨人たちは毒を撒き散らしているのです。彼らは情報を遮断し、事実を歪曲しながら、自分たちが何をしているのか実際にわかっています。

1993年にPFOAの代替品が発見されたときでさえ、デュポン社は年間10億ドルもの利益の可能性を考慮し、そのような大きなリスクを負う必要はなかったため、PFOAに代わる物質への切り替えは行わないと決定しました。

もちろん、ここで言及されているのは金儲けのリスクのみです。

公的調査

2000年8月、ビロットはデュポン社の弁護士に短い電話をし、自身の「研究結果」を伝えた。デュポンは、彼の暗い過去が暴露されたことに直面して、ついに屈服し、農家に補償することに同意した。しかし、ビロットは諦めるつもりはなかった。これはもはや数頭の牛の問題ではなかったからだ。

映画「ダークウォーターズ」の弁護士と農民 | 「ダークウォーターズ」の静止画

同年、3M社はPFOAの生産を中止したため、デュポン社は自社使用のためにPFOAを生産するために別の州に新しい工場を建設した。

ビロット氏は再び数ヶ月間この問題に取り組み、136の証拠を含む972ページの報告書を作成し、EPA長官クリスティ・ホイットマン氏や米国司法長官ジョン・アシュクロフト氏を含むすべての規制機関の長に送付した。激怒したデュポンはビロットに対して言論統制命令を求めたが、裁判所はそれを却下した。

2005年、EPAはデュポン社に1,650万ドルの罰金を科した。これはEPA史上最大の民事罰額だが、その額はデュポン社がその年にPFOA関連製品から得た利益のわずか2%に過ぎなかった。

次に、ビロットは飲料水が汚染されたすべての住民を代表してデュポンに対して集団訴訟を起こした。農場周辺だけでも7万人以上が暮らしており、その多くが何十年も汚染された水を飲んでいた。

**しかし、まだとんでもない問題が残っています。PFOA は汚染物質規制リストにまったく載っていないのです。 **法的に言えば、PFOA を廃棄することは水を廃棄することと何ら変わりはなく、PFOA が有毒であることを証明する報告書はすべてデュポン社と 3M 社の内部データです。デュポン社はこれを認識して、PFOAの安全暴露閾値を1ppb（10億分の1）まで再評価すると直ちに発表しました。再調査の後、デュポン社の科学者と地元の環境保護部門からなる共同研究チームは、新たな基準値150ppbを発表しました。

現在、真実を完全に明らかにする方法はただ一つ、新たな研究チームを招き、7万人の住民のPFOA摂取と健康への影響について総合的な評価を行うことだ。この大規模な研究には3,300万ドルの費用がかかり、7年かかりました。

長い待ち時間の間に、ビロットは会社の顧客を全て失い、収入は減り続け、多大なプレッシャーにより視界のぼやけや腕のしびれなどの症状が出た。

真実が明らかになるのを見ることなく生き延びた、癌に苦しむ住民もたくさんいます。

PFAS に関連する疾患。 |ウィキペディア

研究チームは2011年12月以来、PFOAと腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、高コレステロール、妊娠中毒症、潰瘍性大腸炎との間にはおそらく関連があるという調査結果を次々と発表している。ビロットは各被害者家族を代表してデュポン社を相手取り訴訟を起こし、合計3,535件の訴訟を起こし、6億7,000万ドルの賠償金を勝ち取った。

未完の戦い

それは正義が実現された結果であったが、それを「勝利」と呼ぶことはとてもできない。

数十年にわたる無数の企業による生産と排出により、PFOA は世界中に広がりました。米国環境保護庁が2022年に発表した最も厳しい新基準によれば、飲料水中のPFOAの生涯上限は0.004ng/Lであるが、遠隔地である青海チベット高原の雨水中のPFOA含有量は0.055ng/Lに達している。

これらの物質は動物の体内に蓄積されるため、多くの科学者は、たとえ低濃度の汚染物質であっても、時間が経つと健康に害を及ぼす可能性があると懸念している。

ちなみに、鉛や水銀などの毒性の強い重金属と同様に、PFOAの理想的な推奨摂取値は0です。

PFAS は広く使用されており、現代人は関連製品の使用を避けることはほとんどできません。 |サンダンス

さらに恐ろしいのは、PFOA は基本的に廃止されているものの、PFAS ファミリーの数万種のうちの 1 つにすぎないということです。 PFOA 代替物質を含むこれらの物質は、一般的に包括的な安全性評価と規制が欠如しています。しかし、PFAS関連製品は日用品、航空宇宙、エレクトロニクス、医療など数え切れないほどの分野に広がり、何百万人もの水上輸送従事者の生計の糧となっている。

勇気を出して動いてみませんか？動けますか？

規制は常に市場に遅れをとっています。しかし、利益が莫大になると、資本は未知のリスクに備えて高い代償を払うことを望まなくなります。

最善を望み、「自分は安全かもしれない」と考える人は常に存在する。

2023年1月24日、がんを患う少女アマラ・ストランデさんは、PFASの主要製造業者である3M社があるミネソタ州で、PFAS規制に関する立法公聴会に出席した。アマラさんは3ヵ月後に亡くなった。 |ブルームバーグオリジナル

著者: 張帥燕

編集者：ルナ・ヨウシヨウ