ホルムアルデヒド除去の神話：「ホルムアルデヒドは完全に除去できる」と言う人には注意してください

ホルムアルデヒドは現代の産業に欠かせないものであり、あらゆる面で人間の生活に影響を及ぼします。しかし、ホルムアルデヒドは健康に有害であるため、過剰なホルムアルデヒドによる疾病のニュース報道が頻繁に行われ、「ホルムアルデヒド」という言葉に恐怖を感じる人が多くいます。これにより、ホルムアルデヒド検出およびホルムアルデヒド除去産業が誕生しました。ホルムアルデヒド検査は信頼できるのでしょうか?ホルムアルデヒドを効果的に除去するには？ 「アルデヒド大量発生」の世界で、私たちはそれと調和して生きることを学びましょう。

著者：李存普

ホルムアルデヒドという言葉を聞くと何を思い浮かべますか？呼吸器疾患、皮膚疾患、健康被害、さらには癌などが、ホルムアルデヒドについて聞いた多くの読者の最初の反応であるはずです。

ホルムアルデヒドは有害ですが、それがなければ生きていけないものです。

1. アルデヒドの世界

ホルムアルデヒドは古代から人間社会を取り囲んでいました。木材の燃焼、火山の噴火、オゾンによる有機物の酸化、おいしい食べ物の揚げ物などによって、ホルムアルデヒドが発生します。現代産業の発展に伴い、人々の生活の質を大幅に向上させた新しい樹脂材料、消毒剤、接着剤、防腐剤はすべてホルムアルデヒドの使用を必要としています。至る所にいる喫煙者や車の排気ガスによって生成される大量のホルムアルデヒドと相まって、私たちは実際にホルムアルデヒドがどこにでもある「ホルムアルデヒドだらけの世界」に住んでいるのです。

図 1. 自然界では多くの化学反応によってホルムアルデヒドが生成されます。人類は昔から、木を燃やすことでホルムアルデヒド汚染を生み出してきました。

近年、屋内や車内などの密閉空間におけるホルムアルデヒドの過剰が社会的な関心事として話題になっています。ホルムアルデヒドの健康への害に対する懸念から、ホルムアルデヒド検出・除去業界が次々と登場し、さまざまな「ホルムアルデヒド0」製品も登場しています。化学者として私が日々受ける最も一般的な相談は、室内のホルムアルデヒドを除去する方法だ。頻繁な嫌がらせを避けるために、ホルムアルデヒドを正式にすべての人に導入する時期が来たと思います。

2. ホルムアルデヒドの発生源、特定、危険性

（１）ホルムアルデヒドの発生源：すべてが発生源である

ホルムアルデヒドは最も単純なアルデヒド物質であり、分子式は HCHO です。対称構造のため、ホルムアルデヒドの唯一の炭素原子の両側に他の基をグラフトすることができ、徐々にポリマー材料に成長します。これらのポリマー材料は、密度ボード、パーティクルボード、多層ボード（多層無垢材とも呼ばれる）などのボードを製造するための接着剤として使用され、これらのボードはキャビネットや本棚などの家具に加工されて何千もの家庭に入り込み、現代の家庭の必需品となっています。そのため、ボード内で完全に重合されていないホルムアルデヒドとボード内の接着剤の分解により、ホルムアルデヒドが徐々に放出され、放出サイクルは家具のライフサイクル全体にわたって続く可能性があります。

ホルムアルデヒドは最も単純なアルデヒドであるため、すべての揮発性有機化合物は、自動車の排気ガス、燃料の燃焼、調理（特に揚げ物）、洗剤や消毒剤の酸化などの分解過程でホルムアルデヒドを生成する可能性があります。予想外なのは、喫煙によってホルムアルデヒドが生成され続けることです。

図2. ホルムアルデヒドは最も単純なアルデヒドである

さらに、多くの動物と同様に、人体もホルムアルデヒドを生成します。ホルムアルデヒドはあらゆる細胞の代謝中に生成されるため、人間の血液中には2～3mg/Lのホルムアルデヒドが含まれています[1]。吸入したホルムアルデヒドは、血液中のホルムアルデヒド濃度を大きく変化させることはできません。

（２）ホルムアルデヒドの同定：測定はできるが、基本的に不正確である

国家推奨規格GB/T 16127-1995「室内空気中のホルムアルデヒド衛生基準」によれば、室内空気中のホルムアルデヒドの最大許容濃度は0.08mg/m3である[2]。世界保健機関は、0.1 mg/m3以下のホルムアルデヒド濃度への曝露では肺機能障害、肺がん、白血病などを引き起こさない（予防する）と推奨しているため[3]、国の基準を満たす室内のホルムアルデヒド濃度は理論的には居住者の健康に影響を与えないと考えられます。しかし、文献報告によれば、少なくとも今世紀の初めには、我が国の都市部におけるホルムアルデヒド濃度の過剰問題は依然としてかなり深刻であった。 1999年から2006年にかけて新築された住宅のホルムアルデヒド濃度の平均は0.236mg/m3で、国の基準の約2倍でした[4]。 2017年に報告された2002年から2015年までの室内ホルムアルデヒド濃度の中央値は0.125 mg/m3でした[5]。屋内のホルムアルデヒド濃度を検査するための機器、試験紙、または専門チームが市場に多数存在します。電気化学的方法であろうと化学的方法であろうと、ホルムアルデヒドの濃度を検出するのは容易ではないことは明らかです。正確な微量定量検出装置は一般的に数十万元の費用がかかるため、特に専門的な装置でない限り、自分で購入したホルムアルデヒド検査装置/試験紙の検査結果には強い参考価値がありません。

では、ホルムアルデヒドをどのように識別するのでしょうか?ホルムアルデヒド自体は無色無臭で、高濃度（0.3 mg/立方メートル、鼻の感度によって異なります）になると、特定の刺激臭を放ちます。したがって、私たちが新しく改装された家や新しい車に入るときに嗅ぐ「装飾の匂い」は、ホルムアルデヒドの匂いではなく、他の揮発性有機化合物（VOC）の匂いである可能性が高いです。匂いと比較すると、ホルムアルデヒドの目への刺激は検出しやすいです。改装したばかりの家に特に臭いはないのに、まばたきの回数が増えたり、突然涙が流れたりする場合は、誰かが密かにあなたのことを思っている可能性に加えて、過剰なホルムアルデヒド濃度も原因の1つである可能性があります。もちろん、上記の主観的な判断は心理的要因によって影響を受けやすいものです。

（３）ホルムアルデヒドの害：有害ではあるが、完全に有害というわけではない

ホルムアルデヒドが人体に有害であることは疑いの余地がありません。しかし、さまざまな理由から、ホルムアルデヒドの健康被害は公の場で誇張されている可能性があり、ホルムアルデヒドに対する非難の多くは不当です。ホルムアルデヒドは非常に反応性が高く、簡単に還元できます。吸入または飲み込むと（そうです、私たちは毎日食べ物から大量のホルムアルデヒドを摂取しています）、ギ酸/ギ酸塩に変換され、二酸化炭素として排出されます。これは体内でのホルムアルデヒドの主な代謝産物でもあります。過剰なホルムアルデヒドが蓄積し（多くの場合、特定の職場でのみ発生します）、酵素の処理能力を超えると、ホルムアルデヒドは DNA とタンパク質の架橋を引き起こし、DNA とタンパク質を改変して不活性にし、さまざまな症状や潜在的ながんを引き起こす可能性があります。そのため、ホルムアルデヒドは世界保健機関（WHO）傘下の国際がん研究機関（IARC）によってクラス1の発がん性物質として分類されています。

一方で、「リフォームしたばかりの住宅で肺炎や白血病になる人がいる」といったニュースがときどきメディアで取り上げられ、ホルムアルデヒドに対する人々の過剰な不安を招いています。ほとんどの科学的研究で、新しく改装された家や学校の建物に住むこととがんの発症との間に明確な関連性はないことが示されているので[3、7、8]、あまり心配する必要はないことは明らかです。

多数の文献報告によると、ホルムアルデヒドは一般的に、濃度が1mg/m3（国の基準値の約10倍）を超える場合にのみ、明らかな感覚刺激（まばたきの異常、呼吸困難など）を引き起こすとされています[6]。一方、ホルムアルデヒド濃度が0.38 mg/m3（国の基準値の約4倍）未満であれば、感覚刺激は発生しません。子どもにとっても、新しく改装された教室が古い教室よりも呼吸器系の不快感を引き起こす可能性が高いという明確な証拠はない[8]。

ホルムアルデヒドとがんの関連性も、私たちにとっては遠い存在です。 7.5mg/m3（国の基準濃度の約100倍）のホルムアルデヒド環境に長期曝露すると扁平上皮がんを引き起こす可能性があるが、1.25mg/m3（国の基準濃度の約13倍）未満のホルムアルデヒド濃度が鼻咽頭がんと関連しているという証拠はない[3]。上記濃度はいずれも国の基準を大きく上回っているため、日常の室内生活においては基本的に心配する必要はありません。

「ホルムアルデヒドフリーのボード」や「ホルムアルデヒドフリーの塗料」などの概念を聞くと、いわゆる0ホルムアルデヒドは多くの場合国家基準に基づいており、検査されたホルムアルデヒド含有量は特定の指標よりも低い（無糖飲料の動作に似ている）ことを認識する必要があります。ホルムアルデヒドが含まれていないとしても、これらの製品に身体に有害な他の物質が含まれていないことを意味するものではありません。室内の空気の質に注意を払う場合、ホルムアルデヒドだけではなく、体系的なプロジェクトであるべきです。世界保健機関が発行した「室内空気質に関するWHOガイドライン：特定汚染物質」によると、ホルムアルデヒドは9つの重要な室内汚染物質（ベンゼン、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、ナフタレン、二酸化窒素、多環芳香族炭化水素、ラドン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン）の中で3番目にランクされています。具体的な発生源と危険性については、下の表を参照してください。これらの汚染物質の多くは、人間のがんの本当の原因である可能性があります。

図3. ホルムアルデヒドに加えて、ボードには他の有害物質も含まれている可能性があります

WHO が発表した主な室内汚染物質の発生源と危険性。「室内空気質に関する WHO ガイドライン: 特定汚染物質」より抜粋

3. ホルムアルデヒドを「除去」するには？

しかし、ホルムアルデヒドは結局人体に有害なので除去する必要があります。

ホルムアルデヒドを懸念する読者には、次の提案が考えられます。

（１）ホルムアルデヒドを除去するには、高温、高湿度、長時間、頻繁な換気の４つの原則がある。ホルムアルデヒドは揮発性有機化合物です。キャビネットや机などの家具や木製の床におけるホルムアルデヒドの揮発は、温度が上昇するにつれて激しくなるため、高温環境はホルムアルデヒドの急速な放出を助長します。さらに、ホルムアルデヒドは水に非常に溶けやすく、水と容易に反応してホルムアルデヒド水和物を形成したり、さらに水と結合してジェミナルジメタノール（CH2(OH)2）を形成したりします。純粋なジェミナルジメタノールが生産されたのは昨年のことですが[9]、ホルムアルデヒドが水や高湿度にさらされると、ほとんどのホルムアルデヒドがジェミナルジメタノールに変換され、風とともに放出されます。一般的に言えば、適格なボードに含まれるホルムアルデヒドは基本的に数か月以内に蒸発します。したがって、新しく改装され家具が備え付けられた家の場合、部屋の換気が十分であることを前提として、入居前に少なくとも 1 夏は家を空けることをお勧めします。家具を設置する際には、水を噴霧したり、水を入れた容器を置いたりして、室内の湿度を高く保つ必要があります。

図4. 純粋なジェミナルジメタノールの合成は難しいが、ホルムアルデヒドは水と反応するとエネルギー消費を抑えてジェミナルジメタノールに大きく変換される[9]

ボードや床の接着剤の分解や未反応のホルムアルデヒドの放出は、長期間にわたってゆっくりと進行します。そのため、いわゆるホルムアルデヒド除去チームは、処理後に室内のホルムアルデヒド濃度が基準を満たしていることを保証することしかできず、室内のホルムアルデヒドを真に永久に除去することはできません。同様の理由で、活性炭や珪藻土など、吸着によってホルムアルデヒドを除去する製品も効果はほとんどありません。ホルムアルデヒドは室内でゆっくりと放出されることが多いため、吸着材はホルムアルデヒドで満たされるとそれ以上ホルムアルデヒドを吸収できず、代わりにホルムアルデヒドのゆっくりとした放出源になります。上記の 4 つの原則は合理的かつ経済的な解決策です。

（２）上記４つの原則に加えて、前述したように、ホルムアルデヒドの発生源は多岐にわたり、木製家具からのみ放出されるわけではない。模造磁器の食器やトイレの蓋などもホルムアルデヒドを含む樹脂素材で作られていることが多いです。そのため、室内で調理をしたり、ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物を含む洗剤、接着剤、消毒剤、芳香剤などの日用品を使用する場合は、換気に注意する必要があります。

なお、上記の製品はホルムアルデヒドなどの有害物質を発生するため、大量に屋内に保管することはお勧めできません。さらに、焼き物や揚げ物には高濃度のホルムアルデヒドが含まれている可能性が高いため、これらの食品の摂取を控えてください。

図5. メラミン食器と尿素樹脂便座はどちらもホルムアルデヒドを必要とする。

（３）密閉された空間では臭いに注意する。室内や車内に臭いがある場合、必ずしもホルムアルデヒドの臭いとは限りませんが、他の有害物質の濃度が高すぎる可能性が高いです。上記の 4 つの原則は、他の有害な室内汚染物質、特に揮発性有機化合物に対しても有効です。換気を多めにし、敏感な方の長期滞在を避けることをお勧めします。

（４）オゾン消毒は慎重に行ってください。オゾンは比較的環境に優しい消毒剤ですが、家庭環境での使用にはあまり適していません。一方、オゾン自体はある程度有毒です。一方、オゾンは樹脂などの室内の有機物を分解し、ホルムアルデヒドなどの有害物質を発生させ、二次汚染を引き起こす可能性があります。オゾン消毒を使用する場合は、消毒後に必ず十分な換気を行ってください。

（５）喫煙は健康に有害である。屋内では喫煙しないでください。受動喫煙は自身の健康を害するだけでなく、ホルムアルデヒドなどの有害物質を大量に含んでいます。家の中に喫煙者がいて、室内で喫煙することに慣れている場合は、ホルムアルデヒドを除去する上記の方法をすべてやめてください。出血がひどい人が、自分の体から血を吸っている蚊を殺そうとするのと同じように、蚊を除去しても意味がありません。

つまり、私たちはホルムアルデヒドに満ちた世界に住んでいますが、ホルムアルデヒドは怖いものではありません。怖いのは、「ホルムアルデヒドは必ず除去できる」と言う人の心かもしれません。

参考文献

[1] 制御された条件下でCH2Oに曝露されたヒトおよびフィッシャー344ラットの血液中のホルムアルデヒド（CH2O）濃度。 doi.org/10.1080/15298668591394275

[2] 室内空気中のホルムアルデヒドに関する衛生基準。 http://std.samr.gov.cn/gb/search/gbDetailed?id=71F772D7AAAAD3A7E05397BE0A0AB82A

[3] WHO室内空気質ガイドライン：特定の汚染物質。 https://www.who.int/publications/i/item/9789289002134

[4] 中国におけるホルムアルデヒド：生産、消費、暴露レベル、健康への影響。 doi.org/10.1016/j.envint.2009.06.002

[5] 中国都市部の室内ホルムアルデヒド濃度：いくつかの重要な影響要因に関する予備的研究。 10.1016/j.scitotenv.2017.02.187

[6] 刺激性に基づくホルムアルデヒドの推奨職業暴露限界。毒物学と環境衛生ジャーナル。 1997年2月;50(3):217-263. PMID: 9055874。

[7] ホルムアルデヒドと癌：批判的レビュー。翻訳：

[8] 中国太原市の学校における冬季の屋内外の空気汚染に関連した生徒の喘息症状。出典：dor.org/10.1289/ehp.10576

[9] メタンジオール[CH2(OH)2]の合成：最も単純なジェミナルジオール。 PNAS2022 巻。 119号1e21119381。 doi.org/10.1073/pnas.2111938119

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